公共政策型シンクタンクの勧め
今回の総選挙ではマニフェスト(政権公約)で民主党が先行した。これに自民党がついて行けず、もたついて有権者に悪い印象を与えた。
マニフェストなる言葉を、わたくしが初めて聞いたのは、
1984
年秋のことである。フルブライトのジャーナリストプログラムでワシントンに遊学していたときで、レーガン政権の二期目の大統領選挙が行われようとしていた。
ワシントンでは新興のシンクタンクが、「われわれのマニフェストは第一次レーガン政権でこれだけの政策を実現した」とその影響力を誇示するとともに、二期目の政権のためのマニフェストを掲げて、その実現を議会やホワイトハウスに迫っていた。その提言には国民の生活から国の安全保障にかかわることまでが網羅されていた。
民間のシンクタンクが、政党のために政策を練り、作り、その実現を迫る―というのは、日本ではみかけないことである。
興味深く思ってヘリテージ財団とかアメリカン・エンタープライズ・インスティテュート(
AEI
)、ブルッキングス研究所といったシンクタンクと呼ばれる組織を訪ね歩いて、調べた。
ワシントンでシンクタンクといえば、政治にかかわる公共政策型の組織のことを指す。その運営は、個人や企業からの寄付金で賄われるが、そのお金は決してひも付きであってはならない。公共政策を扱う以上は、シンクタンクは党派に偏ってはならないとされる。
シンクタンクが政治家や研究者を招いて行うセミナーなどでは理事長が、わざわざ冒頭に挨拶して、その独立性を宣言するという気の配りようだ。公共のための政策を扱う以上は、特定の政党や党派のためであってはならないという考え方からである。日本の大企業や企業グループの名前を付けたシンクタンクについて幹部に聞くと、「それぞれの企業の利益のための研究機関ではないか」と峻別し、政府や省庁の予算で運営される研究所についても「税金を使っているのであれば、政権に奉仕するもので、われわれのシンクタンクとは別物」と語った。
もちろん政治にかかわる研究機関である。それぞれの主義主張がなければ、運営資金も集まりはしない。それぞれのシンクタンクには政治的なスペクトルがある。ヘリテージ財団や
AEI
は共和党系とされ、ブルッキングス研究所は民主党系と目されて、研究員には大統領選挙で落選した前、元大統領やホワイトハウスのかつてのスタッフらが目白押しだ。
しかしながらここで一つ、気になることがある。
それは
1970
年代から
80
年代にかけて、独立自尊のアメリカの再生のために、保守系シンクタンクが知恵をしぼった市場原理重視の規制撤廃の政策が、金融システムの暴走を招いて破綻し、多くの分野で再び政府の関与を許してしまったことだ。多大な税金の投入も行われて、数十年、逆戻りしてしまった。
日本でも同じことがいえるが、それが国民のためにならないことは明らかだ。
民主党は、政策制定をこれまでの官僚まかせから行政府の手に取り戻すことを宣言している。果たしてこれを実行できるのかどうか。政治家は一旦、選ばれると、選挙区の面倒見からはじまって途方もない雑事に忙殺される。ついつい官僚に頼ることになりはしないか。
せっかくの民主党政権が元の黙阿弥にならないためには、在野に公共政策型のシンクタンクが生まれなければならないだろう。野党になった自民党にしても、いつの日か再生するためにも、支持者は本当の意味での公共政策型シンクタンクを興して、常日頃から政策論争を仕掛けなければならないと思う。
by
Sanshiro
更新:2009/10/10 04:25 作成:2009/08/30 20:09