WCU(World Currency Unit)
は夢か その2
基軸通貨ドルの危機は、血液を送り出す世界経済のまさに心臓に異変が生じたのだといってよい。基軸通貨は国境を越えた交易の決済に使われるお金だから、世界中が貧血状態だ。
アメリカ政府はあらゆる手段に訴えて、ドルの信頼の回復に努めている。
日本も全面的に支援している。
けれども思うように運ばない。むしろ膨大なドルの供給はますますドルをだぶつかせてその下落を加速させている。
ユーロの登場でドルが余ってしまい、実際の価値が下がっているのに無理やり維持しようとしたのが金融危機の原因なのだから、逆効果は当たり前である。
いまはほかに方法はない、やむを得ない緊急事態だと為政者はいっている。
1990
年代、不景気をなんとかしようと効果のない財政出動のために巨額の赤字国債を発行しまくった日本の
1990
年代と同じ愚を繰り返している。
「
WCU
は夢か
その1」で書いたように、手をこまねいていると国家のエゴイズム、保護主義が台頭してくる。
そしてさらなる大きな悲劇が襲ってくる。
どこかで歯止めをかけなければならない。 対症療法ではなく、抜本的な解決策が必要だ。
基軸通貨は永遠には続くものではないのである。
ドルの基軸通貨としての地位にしても
20
世紀の第一次大戦と第二次大戦の間にイギリスのポンドから受け継いだものだ。
他に信頼できる通貨があれば、それに代わることがあっていいのである。
原因の中核はドルの信用失墜なのだから、ドルに代わる世界通貨の創出を考えるべきときだ。
それが
WCU
(
World Currency Unit
)である。
1971
年
8
月
15
日まで、通貨は金と等価だった。
その日、アメリカのニクソン政権は金との兌換を停止した。
ドルの水ぶくれが始まったのはそのときからだといえる。
当時のアメリカは対テロ戦争で疲弊しているように、ベトナム戦争の戦費と社会保障費の大盤振る舞いで、財政が悪化していた。
だから、再び金を基軸通貨の代わりにすることも選択肢の一つだが、近代の世界の市場経済のスケールは大きく広がっている。
また金を保有していない国も少なくないために、金の基軸通貨案は現実的ではないとされる。
そこで浮上してくるのが、
WCU
(
World Currency Unit
)だ。 ドルを追い詰めている
EU
の通貨ユーロは、現金として流通(
2002
年
1
月)する前に
ECU
(
European Currency Unit
)として、試行錯誤をおこなった。
この手法に見習って世界通貨を創出する方向へと急ぎ、舵を取るべきではないのか。
日本の麻生政権は基軸通貨としてのドルの維持を主張しているが、それはできるのかどうか。 市場原理が働いてドルをはじめとする各国通貨が実体経済にふさわしい価値に落ち着くのをまっていたら、どこまで混乱が続くかわからない。
その間には不測の事態も起きよう。
世界通貨といっても、実現は容易なことではない
けれども、少なくともユーロという最近の実例がある。
ヨーロッパの国々だって、自国の通貨を放棄して共通の通貨を採用するには、国として、民族としてのプライドを捨てなければならないだけでなく、安定した強い通貨のために健全財政(単年度の財政赤字は
GDP
の3%以内、累積赤字同
60
%以内)を実現しなければならなかった。
WCU
の実現の前に立ちはだかるのが、この財政の健全度の問題だ。
アメリカの財政赤字はすでに
10
兆ドルを超えた。
財政規模でアメリカのほぼ3分の1しかない日本も財政赤字は政府保証の地方債を含めれば
10
兆ドルを超えている。
EU
諸国からみたら仰天の大赤字国だ。
EU
では厳しい財政規律を守らなければユーロ発行は認められない。
アメリカがプライドを横において、
EU
にドルとユーロの為替の固定のような提携を頼み込んでも、
EU
の中央銀行(
ECB
)は首を縦に振らないことが考えられる。 せっかくの健全なユーロがドルとの道連れで弱体化することを懸念するからだ。
まして赤字まみれの日本の円の基盤は弱い。
それでも世界経済を再び動かすには、各国が安心して使える世界通貨ともいうべき通貨単位がどうしても必要だと思う。
せめて主要国の通貨を加重計算したバスケット通貨が、暫定的にせよ、政治判断で設けられるべきだ。 国際通貨基金(
IMF
)の場でもいいし、先に開かれた金融サミットで各国の通貨を調整してもいい。 それほどまでに世界経済は悪化の一途をたどっている。
野放図な財政運営を続けていては、
EU
から譲歩を引き出すことはますます難しくなる。
アメリカと歩調をそろえて赤字国債を大増刷しているようでは、日本は世界通貨政策での主導権どころか、発言権も失うことになる。
歯を食いしばって健全財政に向けて努力している姿勢をみせなければならないと思う。
わたくしはeブックランドの社長であると同時に、ヨーロッパ統合の専門家で大学でも教えており、単一通貨ユーロについても著作がある。 あまりの事態にブログでも筆をとった次第だ。 このテーマは2009年の国際社会の焦点になるだろう。
関心のある方はアマゾンなどで「ユーロの野望」(横山三四郎著 文春新書)、「超国家EC-ヨーロッパ合衆国への道」(同、講談社現代新書)、「二十のEC物語」(同、文芸春秋)、「ユーロパワー」(同、ウエッジ)を探して読んでいただきたいと思う。 絶版になった本もあるが、その分、安く入手できる。
by
Sanshiro
更新:2009/01/01 04:40 作成:2008/12/29 18:56